朝から汗ばむほどの熱気。それでも境内には、涼やかな風と、人の手でしか作れない温度がありました。テントの下では地元の大人たちが手際よく準備を進め、子どもたちは目を輝かせて列に並びます。かき氷、綿菓子、冷たい飲み物、わらび餅──昔ながらの屋台の味が、今日この日の記憶を甘く冷たく彩っていきました。

石段に腰かけ、青や赤の氷みつを口の周りに付けながら笑う子。彼らの隣で、保護者の方がそっと手ぬぐいで汗を拭いてあげる。その仕草に「ふるさと」の時間が宿ります。毎年ここに来る子も、今年が初めての子も、気がつけば同じ輪の中。地域の夏祭りは、子どもたちにとって“帰ってこられる場所”であることを、改めて思い出させてくれる瞬間でした。

お昼前、テントの中はひときわ賑やかに。かき氷機の甲高い音が響くたび、列の子どもたちが背伸びをします。コップに山盛りの氷、その上を滝のように流れるシロップ。「いちご!」「メロン!」──選ぶ声は真剣そのもの。横では、ふわふわの綿菓子が空気を含み、白い雲のように大きく膨らんでいきます。

午後、いよいよ腕相撲大会の時間。拝殿にブルーシートが広げられ、特設のアーム台が据えられます。主催者の合図に合わせて、名前を呼ばれた子どもが前へ。会場の空気が一段と引き締まり、畳の上で小さな「真剣勝負」が始まります。


勝って跳ねる子、悔しくて唇を噛む子。けれど、次の瞬間には相手の手をしっかり握り、互いの健闘をたたえ合う姿がありました。会場にいる大人たちの拍手は、勝者だけではなく、挑んだすべての子どもたちに向けられています。「ちゃんと向き合えば、きっと分かり合える」──そんな当たり前で一番難しいことを、この小さな勝負がそっと教えてくれるのです。

境内では同時に、水遊びコーナーも大人気。バケツで水を撒くたびに歓声が上がり、濡れたシャツが陽射しにきらめきます。転ばないように見守る大人の眼差しは真剣そのもの。冷えたスポーツドリンクが次々と配られ、テントの影は小さな憩いのオアシスになりました。
「気をつけて」「ゆっくり」──そんな声掛けが飛び交う度に、この祭りが“安全も楽しさのうち”だと胸を張って言える理由が増えていきます。

夕方が近づくと、影が長く伸び、空の色がゆっくりとやわらぎます。今日初めて顔を合わせた子ども同士が、まるで昔からの友達のように笑い合っている。大人たちは「また来年もやろう」と肩を叩き合い、テントの片付けを黙々と進めます。
“来年もここで会える”──そう思える場所があることは、実はとても幸せなこと。福岡市早良区田隈の夏祭りの中でも、この地禄天神社の一日には、そんな約束のような温かさが満ちていました。

最後にもう一つ、忘れたくない光景があります。
受付テーブルの前で、スタッフTシャツを着た二人が肩を並べて笑っていたこと。彼らの笑顔は、長い時間をかけてこの日を支えてきた人たちの笑顔であり、「地域のために何かをする」ことを楽しんでいる笑顔でした。

参加者の声と、未来へのバトン
「勝てなかったけど、楽しかった」「来年は弟も連れてくるね」──帰り際、子どもたちが無邪気に口にする言葉の一つひとつが、未来へのエールです。保護者の方からは「安心して参加できました」「地域の大人の背中を子どもに見せられてよかった」との声も。
この祭りが続く限り、子どもたちには“戻ってこられる場所”がある。そして私たち大人には、“渡すべきバトン”がある。そんな確信を胸に、今年のふれあい夏祭りは静かに幕を閉じました。

来年も、ここで会いましょう。
「また来年も来るよ」と言ってくれたあなたへ。あなたの席は、もう用意してあります。